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福岡高等裁判所 平成7年(う)379号 判決 1996年3月19日

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役三年六月に処する。

原審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

被告人から、押収してある回転弾倉式けん銃二丁(原庁平成七年押第二三号の1、2)及び実包二七発(同号の3。打ちがら薬きょう四発分及び解体実包二発分を含む。)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官佐々木英雄提出(検察官松本弘道作成)の控訴趣意書に、これに対する答弁は、弁護人栗原賢太郎提出の答弁書に、各記載されているとおりであるから、これらを引用する。

一  控訴趣意中、事実誤認の論旨について

論旨は、要するに、原判決は、原判示第二の一の事実につき、「被告人は、法定の除外事由がないのに、平成七年五月一六日、長崎県大村市《番地略》所在の山林内において、回転弾倉式けん銃二丁(原庁平成七年押第二三号の1、2。以下押収物は符号のみで表わす。以下「本件けん銃」という。)をこれらに適合する実包二七発(符号3。鑑定後の打ちがら薬きょう四発分及び解体実包二発分を含む。)と共に保管し、もって、けん銃二丁及び実包二七発を所持した。なお、同日、同所において、司法警察員に対し、右けん銃二丁を提出して自首した。」と認定したが、自首を認定した点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。そこで、原審記録に当審における事実取調べの結果を併せて検討する。

原判決が「罪となるべき事実」として原判示第二の一の事実につき認定した内容は、所論指摘のとおりである。被告人が原判示第二の一の事実を供述した経緯及び本件けん銃の提出状況をみるに、被告人の原審公判供述、検察官調書(原審検乙一〇号)、警察官調書二通(原審検乙一号、当審検二号)、大宝和宏の検察官調書(当審検一号)、現行犯人逮捕手続書(原審検甲五号)によれば、大村警察署では、平成七年一月中旬ころ、長崎県諌早市内の暴力団員から、「暴力団甲野組組長であるA(被告人の父親であり、平成六年二月二七日に死亡した。以下「A組長」という。)が、平成五年一一月か一二月ころ、スミスアンドウエッソン製三八口径のけん銃を隠し持っていたのをみせてもらった。A組長の死亡後、甲野組の被告人、B、Cのいずれかが持っているのではないか。」という情報を入手し、更に、平成七年二月上旬、A組長の情婦からも、「A組長の逃走中、同人を自宅に匿ったことがあるが、その時の言動からけん銃を持っていたのではないかと思った。」旨事情聴取し、その後同年三月か四月ころ、前記諌早市内の暴力団員から、「A組長の兄貴分に当たるDがA組長にけん銃を譲ってくれるように頼んだが、断られたことがあった。」旨の情報を入手しており、A組長の死亡後、実子である被告人が暴力団二代目乙山会甲野組の跡目を継承して組長代行に就任しているので、被告人において、以前A組長が所持していたけん銃を隠し持っている嫌疑があると考えていたこと、大村警察署は、同年五月一六日午前八時五分、同署において、原判示第二の二の暴行罪を内容とする被疑事実により、被告人を通常逮捕し、直ちに同署刑事課暴力班所属の大宝巡査部長が被告人の取調べを開始したこと、被告人は当初から右暴行罪につき自白し、同日午前中、被告人の身上調書、同罪につき自白を内容とする警察官調書が作成されたこと、昼食後、同日午後一時過ぎから同巡査部長による取調べが再開され、同巡査部長は被告人に対してけん銃所持の点につき追及を開始したこと、けん銃の点につき、当初被告人は黙ったままだったが、午後二時三〇分ころ「堅気になりたい。」と言い出したもののけん銃の点については供述しないので、同巡査部長が更に説得を続けたこと、午後三時ころ同巡査部長は、横山警部補と取調べを交代し、午後五時ころまで同警部補がけん銃の点につき被告人を追及したこと、同日午後五時ころ、同巡査部長は、再び同警部補と取調べを交代し、その際、同警部補から、「被告人は、暴力団を脱退したい方向に気持が傾いているようだ。けん銃についてそのうち話すのではないか。」と聞いたこと、交代後同巡査部長が約一五分間被告人に対して、けん銃の点につき正直に話してこれを機会に堅気になったらどうかと説得したところ、被告人が、「この事件をきっかけに堅気になることを決心しました。父が残していったけん銃は私がもっています。隠している場所に案内します。」と自供して原判示第二の一の場所へ警察官を案内して隠し場所を指示し、そこを掘り起こしたところ、地中からアタッシュケースが出てきてその中からけん銃二丁、実包二七発が発見され、同日午後六時一〇分同所において、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の被疑事実により現行犯逮捕されたことが、認められる。

平成七年法律第八九号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法(以下「改正前の銃刀法」という。)三一条の四に規定されている自首を同年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)四二条一項に規定されている自首と比較すると、前者においては、「未タ官ニ発覚セサル前」という要件がなく、けん銃の提出という要件が必要である点において後者と異なるものの、前者においても、後者同様、犯人が捜査機関に対して自発的に犯罪事実を申告して訴追を求めることが必要であるものと理解すべきところ、右に述べた経緯からすれば、大村警察署は、平成七年五月一六日午前八時五分ころ被告人を原判示第二の二の罪を内容とする被疑事実により通常逮捕した当初から、被告人がけん銃を所持しているという嫌疑を抱いており、大宝巡査部長及び横山警部補が交代しながら、右嫌疑に基づき同日午後一時過ぎから約四時間にわたり被告人に対して、けん銃所持の点を追及し、自白してこれを機会に堅気になるように説得を重ねた結果被告人がけん銃の所持を自白して警察官をけん銃の隠し場所に案内してけん銃を提出したことが認められるから、これをもって、被告人が自発的に犯罪事実を申告して訴追を求めたものとはいえず、被告人に改正前の銃刀法三一条の四にいう自首は成立しない。したがって、原判決には、原判示第二の一の事実につき、自首の成立を認定した点において事実誤認があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

よって、その余の論旨に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して、当裁判所において、更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第二の一 法定の除外事由がないのに、平成七年五月一六日、長崎県大村市《番地略》所在の山林内において、回転弾倉式けん銃二丁(符号1、2)をこれらに適合する実包二七発(符号3。鑑定後の打ちがら薬きょう四発分及び解体実包二発分を含む。)と共に保管し、もって、けん銃二丁及び実包二七発を所持し、

第二の二 同年四月六日午前一時ころ、同市《番地略》所在のスナック「丙川」において、同店従業員E(当時二〇歳)の頭髪を左手で鷲掴みにして揺さぶり、もって同女に対し暴行を加えた。

(証拠の標目)《略》

(法令の適用)

被告人の判示第二の一の所為のうち回転弾倉式けん銃二丁をこれらに適合する実包二七発と共に保管所持した点は、包括して改正前の銃刀法三一条の二第二項、一項、三条一項に、実包二七発を所持した点は、火薬類取締法五九条二号、二一条に、判示第二の二の所為は改正前の刑法二〇八条にそれぞれ該当するところ、判示第二の一の所為は、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い改正前の銃刀法違反の罪の刑で処断することとし、判示第二の二の所為につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は、改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の一の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年六月に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、押収してある回転弾倉式けん銃二丁(符号1、2)は、判示第二の一の改正前の銃刀法違反の犯罪行為を、実包二七発(符号3。打ちがら薬きょう四発分及び解体実包二発分を含む。)は火薬類取締法違反の犯罪行為を組成した物で、いずれも被告人以外の者に属しないから、改正前の刑法一九条一項一号、二項本文にしたがい、これらを被告人から没収することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、平成七年五月一六日、判示の山林内において、回転弾倉式けん銃二丁をこれらに適合する実包二七発と共に保管し、もって、けん銃二丁及び実包二七発を所持し(判示第二の一の事実)、同年四月六日、判示のスナック「丙川」において、同店従業員E子の頭髪を左手で鷲掴みにして揺さぶり、もって同女に対し暴行を加えた(判示第二の二の事実)、という事案である。まず、判示第二の一の犯行をみるに、本件けん銃はいずれも殺傷力の強い真正けん銃である上、けん銃の数も二丁、それに適合する実包の数も多かった点において強く非難される。本件けん銃及び実包は、元々甲野組員である原審相被告人Bが被告人の実父であるA組長から預かっていたものであるところ、平成六年二月二七日A組長が死亡すると、その約一週間後に被告人が組長代行の地位に就任し、被告人は、同年三月下旬ころ、Bから本件けん銃等を預かっているという事情を聞くと共に、隠し場所のアパートへ案内してもらって実物を確認し、以後、同年一二月下旬まで、そのアパートに、その後約一週間被告人方の庭の土中に、その後判示第二の一の山林の土中に隠していたものであって、最終的には土中にあったとはいえ、丁寧に何重にも包装されるとともに、乾燥剤と共にアタッシュケースに入れられ、更にアタッシュケースも二重にビニール袋に包まれていたものであって、アタッシュケース内の本件けん銃及び実包に痛みがこないように慎重な保管方法がとられていたものである。しかも、甲野組は、組員の数が多くなかったとはいえ、暴力団乙山会の系列下にあって、被告人は甲野組組長代行に就任するや乙山会本部へ挨拶に行き、その後も同本部で毎月開催される総会に甲野組の代表者として出席するなど、乙山会との強い関係を維持していたものである。被告人が本件けん銃等を保管していた期間を通じて、これを使用したことはなく、また、これを特定の目的に使用することまで考えていなかったとはいえ、甲野組組長代行として組を運営していくなかで、将来けん銃を必要とするときがくるかもしれないという考えのもとに保管していたのであるから、本件けん銃等が暴力団員により人命を殺傷する目的のもとに使用される危険性が低かったものとはいえない。けん銃等の保管に対する社会的な非難は強く、けん銃を適合実包と共に保管することの法定刑も重い。

次に判示第二の二の罪をみるに、被害者に格別の落度がないのに、無抵抗の女性に対して一方的に暴力をふるった点において悪質であるし、自己が暴力団員であることを誇示するような言動をとるなど、暴力団の体質をむきだしにした犯行である。原審段階においても被害者に対する慰謝の措置はとられていなかった。以上述べた事情から考えると被告人の刑事責任は重大である。

してみると、判示第二の一の罪につき、改正前の銃刀法上の自首が成立しないものの、被告人は、判示第二の二の罪により逮捕されたその日のうちに、本件を機会に、甲野組を解散すると共に自らも暴力団関係を断つことを決意した上で、同第二の一の罪につき自白して直ちに警察官をけん銃の隠し場所へ案内して土中から発見された本件けん銃等を提出しており、これにより本件けん銃等の使用が未然に防止できたのであるから、このこと自体は、量刑上それなりの重みをもって被告人のために評価されてよいこと、その後も、右決意を強め、原審段階において、甲野組の事務所を明け渡し、解散届も提出したこと、判示第二の二の罪につき、原判決後、被告人が被害者に謝罪し、被害者が被告人の寛大な処分を望む旨の上申書を作成したこと、前科としては、罰金前科が一件しかないこと、被告人が内妻を抱えていること、Bは原審において、刑執行猶予の言渡しを受けて刑が確定したこと等の、被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、被告人の刑事責任の重さやこの種事案の量刑の実情から考えて、本件は、刑執行猶予の言渡しをするのが相当な事案であるとまでは認められず、主文のとおり量刑したものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田憲義 裁判官 谷 敏行 裁判官 林 秀文)

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